子どもたちの健全な咬合育成を行う歯科医師団体

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第21回特別講演会 よせられた先生方の質問に答えて

   

Q顎の小さいお子様が増えています。側方への拡大は側方拡大床でいけますか?前後径の拡大をするためにはどの時期の口腔機能が大切でしょうか?キャッチアップのためにはどのようなトレーニングが必要でしょうか?
A側方拡大床は、筋肉、特に舌の働きを補完するために結果として成長発育が不足している状態に使用する器具です。乳幼児期においては、将来的に矯正装置が必要とならないように、いかに自然発育を促していくかが大切です。個々の装置やトレーニングについては、ケースバイケースなので、お答えすることは差し控えます。
QMFTを指導している中で無意識に舌がダラっと下がってくる子がいます。その子の親に聞くと皆さん産まれたときからベロがダラっと見えていたと思います。それはお腹の中の指しゃぶりが少なかったからですか?
A授乳期には授乳に適した舌位置と口唇形態があり、離乳が進むとあるべき形状と機能を獲得していきます。
赤ちゃんの時に舌が見えているのは異常ではなく、産まれた時からしばらくは、だらっと下がっているのは自然なことと考えられます。
Q3歳までの指しゃぶりは舌筋のために良いという先生もいるが・・・?
A何歳までの指しゃぶりが良いのか議論が分かれるところですが、舌筋も含めて口腔周囲筋から顔面表情筋の成長・発育のために必要と考えられます。適切な時期にやめないと、口呼吸や開咬等の不正咬合の原因になってきますので、経過を注視していき、年齢が上がってもやめられなければ、中止のための支援をする必要があります。
Q乳幼児健診でフッ素を塗布しています。フッ素塗布を希望されない方の子どもに限ってむし歯があったりします。歯科受診のおすすめとしてもフッ素に何らかの抵抗感がある人に歯科材料、だいたいフッ素入ってない?と先行が心配になります。日本歯科医師会の方針ではフッ素推奨と聞きましたが、このような保護者に関してはどのように対応すればよいでしょう?
Aむし歯の予防にはフッ化物を用いることには歯科医学的に根拠があり効果も高いと思います。基本的に、歯と口の病気(むし歯の予防や歯並びに関しても)の予防には食事や生活習慣が大切だと考えます。よく咀嚼し正し く嚥下することは、むし歯や歯周病の予防だけでなく、歯並びや顎・顔面の発育にも大変重要であると思います。そして、よく咀嚼し正しく嚥下するためには、呼吸や姿勢の改善も不可欠です。まずは食生活、特に飲食回数と砂糖摂取の改善、そして咀嚼・嚥下、呼吸、姿勢の改善によって、口腔環境を改善することで対処されてはいかがで しょうか。実はそれが本来の予防に必要なことだと思います。
Q乳歯、混合歯列期の咬合診査のコツはありますか?うまく誘導できないことが多いのですが…
A嫌がる子の診査は難しいものです。緊急性のある場合は無理にでも診ますが、そうでない場合は急がず、子ど もが安心できてからでも良いかもしれません。チェアー上に寝られない子は、何歳でもお母さんの膝上で診察するのも一つの方法ではないでしょうか。

田村康夫先生からの回答

Qヌークは下顎を前方にもっていくように設計されているとのことですが、ヌークの良い点、欠点とヌークの適応、非適応のケースを教えてください
Aヌークの独特の形は、赤ちゃんがお乳を吸っている時の口蓋、舌、乳首の位置を、お母さんの乳房にバリウムを塗り、吸啜運動をレントゲンムービーで横から撮影し、それぞれの位置関係から製作して、あの乳首形態になっています。舌蠕動運動の一瞬を切り取った再現したものといえます。ヌークを吸っているところを実際哺乳ビン側からみると舌蠕動運動中に途中乳首と舌との間に空隙ができフィットしていないことが分かります。筋活動量を調べても低い値を示していました。ただ赤ちゃんは与えられた乳首に対し、工夫しながら吸う努力をし、飲んでいることがわかりました。保護者もメーカーも赤ちゃんの口に合う合わないには気がつかないことが多いと思います。したがって適応、非適応のケースといった考えはないと思います。
Q海外ではOrthodonticとパッケージに書かれたおしゃぶりが大半ですが、そのように表記されたおしゃぶりは良いおしゃぶりと考えても良いのでしょうか?厚さが薄く、吸口はNUKのもののような形状をしています。
Aご指摘のとおりです。不正咬合になるとはどれも記載していません。人工乳首も多くが“母乳に近い”と謳っていますが、どこが“母乳に近い“のかエビデンスまでは提示していないのと同じです。講演の中でも触れましたが乳首基底部(切歯間に相当)の高径が小さいものを勧めています。ヌーク型が多いのは欧米で人工乳首(おしゃぶり)の始まりがヌークですので、そこから来ています。しかしこの名称で特許も取られているようですが、Orthodontic pacifierの定義は特にありません。基本デザインはNUKで、メーカーにより異なります。Effects of conventional and orthodontic pacifiers on the dental occlusion of children aged 24-36 months old. Lima et al. Int J Pediatr Dent, 27:108-119, 2017. では、通常おしゃぶりより開咬量が小さいとの報告があります。
Q海外ではおしゃぶりはよく使用されているように思います。日本人より歯並びは良くない傾向にあるのでしょか?(不正咬合発症率が高い)?
A欧米では上顎前突が、日本では下顎前突の不正咬合が多いとされています。1950年代にドイツでは上顎前突を防ぐため、NUK型の人工乳首が開発され、下顎を前方に誘導して吸啜することを意図して、あの独特の形態になりました。またおしゃぶりと不正咬合との関係は、文献的には相関があるとされていますが、早期に終了すると影響は軽微と思われます。
Q前回の講演会では0歳から積極的におしゃぶりを取り入れようとのことでしたが、今回はおしゃぶりはしないのがベストとお話しされていました。いくつまでおしゃぶりは必要なのでしょうか?発育、咬合に影響を及ぼす詳しい時期を教えてください。
Aおしゃぶりに対する考え方もいろいろあると思います。本学での調査では、70%のお子さんはおしゃぶりも、指しゃぶりもしていません。したがって、指しゃぶりをするくらいならおしゃぶりを、という意見には賛成です。
・参考:中西、田村:授乳方法がその後の口腔機能発達に及ぼす影響、アンケート調査による食行動の検討、小児歯誌,43:669-679,2005.
Q本日はご講演ありがとうございました。おしゃぶりのスライドで「開口の発生率 D,C群(低高径)>N群」と記載がありましたが、「D,C群<N群」ではないでしょうか?
Aご指摘の通りで、低高径のDC群が開咬の率は小さくなります
Q母乳の子と人工乳の子の吸啜運動に差がなかったとの発表でしたが、母乳の直接哺乳と人口乳首をくわえる時には深さも強さも違います。母乳の直接哺乳の赤ちゃんが人口乳首をくわえると、浅飲みのタイプに近い飲み方になるので、実際にその飲み方で母乳を飲んでいるとは評価しづらいと思います。浅飲みの赤ちゃんは哺乳瓶授乳の赤ちゃんに似た、口蓋が細い(V字)の子が多く、口蓋容積が広がっていない模型をよく見ます。母乳の赤ちゃんで普段の授乳が浅いか深いかを考えてのデータを知りたいです。
A全体的に差がなかったのではなく、吸啜運動の基本的な一連の動きには両者に差はなかったという意味です。しかし、吸啜時の口腔周囲筋の活動量をみると母乳の方が人工乳よりも大きな活動を示していました。

・乳房および人工乳首吸啜時の筋電図学的比較、小児歯誌、35:926-935,1997.
・乳児吸啜運動時の口腔周囲筋筋活動と時間的変化、小児歯誌、32:817-825,1994.

口蓋の形態についても検討しています。吸啜窩が認められた乳児は70%で、他は丸くドーム上になっていました。両者の形態による比較は検討していません。ただ乳児期の口蓋形態は、吸啜の影響により口蓋形態が変化するというより、むしろ乳児の上顎(口蓋)が形成(左右骨の癒合)される際の一時期の形態と考えています。

・無歯期乳児の口蓋形態の特徴および成長による変化、小児歯誌、49:439-451,2011.
Q筋電図にて筋群が協調して活動している上手な食べ方として3歳時でのビデオを見せていただきました。
おにぎりとサンドイッチを食べていましたが、前歯で噛み切る量が多いのか、口唇がパクパク開閉して咀嚼しているものが見えていますし、嚥下した後、口で呼吸していました。これを上手な咀嚼としてとらえることに疑問を感じました。筋運動がリズミカルに協調しているということは理解できました。
A咀嚼パターンを開口筋と閉口筋の分類すると、離乳開始時期の持続的舌圧接型、離乳開始3,4か月で出てくる周期的舌圧接型、そして3歳頃に出現してくる成熟型に分けることができました。ビデオの3歳児は成熟型に分類されました。赤ちゃんの時から何回も計測に参加し、成人まで小児歯科に通っていた子どもさんです。口唇を開けていたかもしれませんが、咀嚼機能の発達は全く正常です。
Qそして同じ幼児の6〜7ヶ月のビデオにて上手ではない筋運動として紹介されましたが、成長過程として異常なのでしょうか?上手ではないけど、成長、学習中ということになると理解していますが、正確にご説明していただきたいと思います。
A上手ではないと紹介したのではなく、ご指摘の通り前述の移行期にある子どもさんの特徴的な食べ方(周期的舌圧接型)を示していると説明しました。
Qまた、この6〜7ヶ月の離乳食初期の食べさせ方に疑問を持ちました。スプーンで食物を口の中に放り込むようにしています。以前のセミナーにて食物は下口唇が閉じてくるのを待って取り込みさせると学びました。この点での解除(介助?)の不都合が、口唇を閉じる機能の発達が未熟となり、3歳時での口パクパクにつながっているのではないかと考えました。
A授乳や離乳食の観察は、摂食障害を主訴に来院している赤ちゃんではなく、いわゆる健常な赤ちゃんでボランティアで来ていただき、離乳食の与え方も全て普段通りにお母さんにやってもらっています。その後、定期健診で来院しましたが、摂食機能も含め口腔には特に異常は認められていません。

・乳幼児期の咀嚼発達における咀嚼筋筋協調パターンの変化、小児歯誌、37:933-947,1999.
・乳歯萌出と咀嚼筋活動の変化から検討した乳幼児期の咀嚼発達、小児歯誌、40:32-45,2002.
Q3歳時健診で舌小帯付着異常を確認した場合どのように対応してよいか?構音では判断しにくいし、乳児期に正常に哺乳えきた場合、何歳くらいまで様子をみて良いか?構音障害があった場合、切除すると改善されるのでしょうか?
A3歳では、直ぐに切除することはないと思います。舌小帯の長さ・幅や構音の状態、様々な要因をみる必要があると思います。発音の不明瞭さも発達段階における乳幼児期の一つの特徴です。切ったからといって発音が直ぐに改善するとは思えません。


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